おいしいコーヒーを飲むのに欠かせないが、コーヒー豆の存在です。

ただ、豆の種類が多いがゆえに何を選んでいいのかわからない……、なんて悩ましい気持ちになることもありますよね。どうせ買うなら、おいしい豆を選びたいものです。

そこで、コーヒー初心者である当サイトのスタッフが自分でコーヒーを淹れられることを目指し、バリスタの星野元樹氏にコーヒーのあれこれを聞いてきました。

今回は連載3回目『コーヒーの豆選び』についてをお届けします。

星野元樹(ほしの げんき)氏<左>

2005年にコーヒーの世界へ。タリーズコーヒーにて店舗マネージャー、コーヒースクール講師を務めた後、新潟伊勢丹『ショコラモード』でバリスタとして店舗を運営。その後、鈴木コーヒーに入社して直営店事業統括マネージャーとなり、ぴあ万代、伊勢丹に直営店をオープンさせる。2018年に独立し、家業の稲作農業とコーヒー業の二刀流『ホシノテラス』をスタート。(もっと詳しく

皆川(みながわ)<右>

当サイト『U+RooLee(ゆるり)』のスタッフ。趣味はお酒と映画鑑賞のインドア派。これまでのコーヒー歴はインスタントのみ。結婚を機に家で過ごす時間が増えたこともあり、ちょっと本格的なコーヒーを始めてみたい今日この頃。毎朝、食後に一杯のコーヒーを飲むのが日課。(前回、コーヒーの器具について学んだ。)

皆川 これまで豆を買ったことがないので、どう選んだものかと困っています。正直、まだコーヒーの味がわかるレベルではないので……。最初に癖が強いものを選んで「まずい」となるのはちょっと避けたくて。まだ味がわからない初心者でも「おいしい」と感じられる豆に当たれたらなと思っています。

星野元樹氏(以下、星野) そうですね。豆はすごい沢山種類があります。日本が発表している世界の国の数は196カ国ですが、そのうちの70カ国ほどでコーヒーが栽培されています。

コーヒー豆は農作物なので産地によって味の特徴が変わるんですが、生産国が70カ国あれば、まず少なくとも70種類の個性がある。つまり、少なくともまずそれだけの愉しみがあるんです。

はじめての豆選びで迷ったときのおすすめ豆

皆川 少なくとも70種類! 愉しみが多いのはいいですね。ただ、それだけあるとどうやって選んだものか……。

星野 そこをどうしていくかというと、コーヒーの生産量が多い国はぶっちぎりでブラジルなんですね。次いでベトナムも多いんですけど、ブラジルが世界の生産量の大体3分の1を作っているので、まずはブラジルのコーヒーの味をみてもらったらいいんじゃないかと思います。

皆川 まずはブラジルから入っていけばいいと。

星野 普段インスタントで飲んでるコーヒーは、ほぼ全部にブラジルが入っています。ブラジルが入っていないコーヒーを見つけるほうが難しいくらい、ブラジルはよく使われています。なので、多くの人が「これぞ、コーヒーの味」と感じるのは、ブラジルの味かな、という気がします。

皆川 私たちが普段慣れ親しんだ味に近いから、最初の入り口としても口に合いやすい、ということでしょうか?

星野 そうですね。要は一番、バランスの取れた味だと思っていただければいいと思います。ブラジルがコーヒーらしい味で、飲みやすい。

飲み比べにおすすめな3種類の豆

皆川 豆による味の違いを知りたくて、いくつか飲み比べしてみたいのですが、「コーヒー初心者は、まずこれを飲んでみるといいよ」といった切り口でおすすめの豆はありますか?

星野 3つあげるとしたら、ブラジル、インドネシアのマンデリン、エチオピア、この3つをまず飲んでみてほしいですね。

皆川 それぞれ味の特徴があるのでしょうか?

星野 ブラジルがバランスが取れてどなたにも愛される味わい。

インドネシアは深いコクがあって、飲みごたえがあってどっしりした印象のコーヒーが多いでしょうかね。独特のコーヒーの香りがあって、バターっぽさとか、舌触りの滑らかさみたいなものが感じられます。とにかくコクが強いですよ。「飲んだなー、コーヒー」っていう。そういったものはアジア圏、特にマンデリンという品種の特徴でよく出るんじゃないですかね。

もうひとつはエチオピア。これはもうとにかく華やかで、「コーヒーってのはフルーツなんじゃないかな」というのをわかっていただけるんじゃないかなと思います。

皆川 コーヒーはフルーツなんですか?

星野 コーヒー豆とは呼ぶけど、『コーヒーノキ』になる果実の種がコーヒーの原料なんです。それを精選といって殻をむいて、洗ってあげて、乾燥させてあげます。そして、焙煎といって火にかけると一般的にみなさんがイメージするような褐色のコーヒー豆になるんです。

コーヒーを収穫する星野氏と収穫したコーヒーの実。

皆川 元が果実の種だから、フルーティさも感じられるわけですね。ちなみに、ブラジル、インドネシア、エチオピアの3つは王道の豆と考えてもいいんでしょうか?

星野 まさに王道中の王道です。ブレンドコーヒーでこの3つをブレンドをすると、すごくバランスがいいわけです。バランスが取れた味の中に、華やかさとコクが入るわけですよ。すごくまとまりがよくなります。

コーヒーと相性がいい食べ合わせ

皆川 我が家では妻が甘いものが好きで、チョコやケーキ、フルーツを食べるときによく一緒にコーヒーを飲むんですが、そうした甘いものと相性がいい豆はあったりしますか? 食べ物に合わせてコーヒーを淹れられたら喜んでくれそうですし、より美味しく豊かな時間を過ごせそうだなぁ、なんてちょっと憧れています。

星野 まさにさっきの3種類が一番いいんじゃないかと思います。

ブラジルはナッツの風味がベースに感じられるコーヒーなんですが、アーモンドやマカダミアといった「チョコ×ナッツ」の組み合わせがあるように、チョコとの相性は抜群です。

あとは和菓子もいいですね。ブラジルはあんことも相性いいですよ、すっごい合います。総じてブラジルは万能で、バナナもおいしいですね。チョコバナナにして合わせたら最高ですよ。

皆川 たしかに、それはとてもおいしそうです!

星野 インドネシアはもうちょっと癖があるものと合わせてもいいので、チーズと合いますよ。チーズケーキとか最高ですね。チーズ単体で食べても合いますよ。プロセスチーズ食べてコーヒー飲んでも、そうそうケンカしないです。

なぜかというと、インドネシアも味が強くてコクがありますし、ハーバルなハーブっぽさを感じさせる香りがあるので、チーズのコクとケンカしないんです。

皆川 チーズとコーヒーが合うなんて面白いですね。

星野 エチオピアはフルーツ感があるので、やっぱりフルーツとの相性がいいですね。そのままイチゴとか、フルーツケーキだったりとか、ブルーベリータルトとか。びっくりするくらい合うと思いますよ。

コーヒーと食べ合わせ、これはもう無限に楽しめますから。どんどん一緒に合わせてみて、愉しんでもらいたいですね。

コーヒーの焙煎による味の違い

皆川 そういえば、「浅煎り」とか「深煎り」とか聞いたことがあるのですが、これはどんな違いがあるんでしょうか?

星野 そもそも豆による味の違いは、先ほどの産地による違いと、焙煎というコーヒー豆を調理する2点でほぼ決まってきます。

焙煎というのは、生豆を火にかけて焼くことなんですけど、この強弱で味が変わるわけですよ。

生豆は緑がかった色。

焙煎することで色が変化。

星野 浅煎りだと、もともとの素材の味がよくわかる。フルーツ感とか酸味を感じやすいんです。で、煎ることで素材が持っている酸味が甘みに変わっていくんですけど、煎り方を深めていくほどにコーヒーらしい苦味と香ばしさが出てきます。

皆川 浅煎りなら、酸味が強く素材の個性が。深煎りなら、苦味が強く香ばしく。同じ豆でも焙煎度合いによって味が変わるわけですね。

プロの豆の選び方

皆川 ここまで豆の選び方を教えてもらいましたが、いわゆるプロの方はどういった目線で豆を選んでいるんでしょうか?

星野 僕らはまずは「素材がどうか?」というところに着目します。コーヒーの原料になっている生豆が何を使っているかで選びます。

料理で「素材が7割」って聞いたことがありませんか? それと一緒なんですが、コーヒーも素材7割。コーヒー豆の元の質がよくなかったら、その後にどんなにいい焙煎をして、気を使った抽出方法をしても絶対美味しくならないので。いい素材を扱っている所で買うというのが前提条件ですね。

逆に言うといい素材を手に入れたら、素直にそれを活かすだけ。お刺身とかの和食に近いかもしれませんね。コーヒーはあんまり手をかけてもよくないので。

皆川 なるほど、プロは素材に着目し、素材がいいのが前提条件と。

星野 それで、豆はスーパーでもコンビニでも買えますよね。でも、いつ焼いたかわからないというものは、僕はお金を払ってまで買いたいとは思いません。

皆川 それは、いつ焼いたかが重要だということですか?

星野 重要ですね。コーヒーは焼いてから1ヶ月以内くらいが賞味期限というか。だから、1ヶ月くらいで飲み切る量を買って欲しいんですよね、僕らコーヒー屋としては。だから、焼いた日がちゃんと書いてあるのが最高ですよ。焼いた日がわからない豆は、僕は正直お金を払おうとは思わないですね。

皆川 それほど味が違ってくるんですか?

星野 味がなくなるわけではないんですよ。たとえば1ヶ月経ってもコーヒーだと思える味はあります。でも、香りのボリュームがどんどん下がってしまうので。同じものなのに物足りなくなってしまうんですよ。豆は同じものなのに。だったら、よりおいしい状態で飲みたいですよね。

コーヒーって乾物的に思われやすいんですよ。でも、「そんなに持たない、持たない」って話なんですよ。美味しく飲みたいんだったら、やっぱり鮮度がいいものを選ぶ。もうコーヒー屋さんはみなさん言いますよ、「コーヒーは生鮮食品だぜ」って。「お魚くらいに扱ってよ!」って思ってるんですよ。早いうちに飲んでねっていう意味で。

コーヒーの賞味期限

皆川 賞味期限の話がでましたが、コーヒーはできるだけ早めに飲んだほうがおいしい、というわけですね。

星野 基本的にはそうですね。目安として粉なら2週間、豆なら1ヶ月が美味しく飲める期間だと思ってください。

ただ、豆の状態で取っておく場合は、焙煎した日から「エイジング」といって熟成期間を置くことがあるんですよ。

皆川 エイジング? それはどのくらいの期間を置くんですか?

星野 豆の状態にもよるので一概には言えないですけど、焼いた日より次の日、その次の日のほうがコーヒー豆は美味しくなるんです。

焙煎したての豆はガスを含むんですよ。焼いたときに炭酸ガスが発生していて、ガスが残った状態だと100%の味わいが出ないんですね。でも、焙煎してから5日~10日くらい置いておくとガスがほどよく抜けていく。なので、豆の場合は焼き立てすぐより、エイジングしたほうがおいしいと思いますよ。

皆川 なるほど、だから焼いた日がわかることが重要なんですね。

星野 そうです。ようは飲み頃のピークポイントが10日目~1ヶ月まであるというイメージです。これ、愉しみ方が面白くて。焼き立ても美味しくないわけじゃないんです。なので、エイジングしている10日間の間にもちょっと飲んでみて、味の変化を愉しむこともできます。

焼き立てのものと10日後のものを飲み比べると、もう味が全然違うわけですよ。「え、こんなに美味しくなるの?」ってなりますから。びっくりしますよ。

皆川 ひとつの豆で、二度、三度、愉しめるわけですね。

星野 そうです。焼いた日がわかるかどうかで体験に価値のレベルの差ができちゃうんですよ。「同じものを飲むんだったら、そっちの方がよくないですか?」というのがコーヒー屋としての意見です。

コーヒーの保管方法

皆川 豆はどうやって保管したらいいんでしょうか?

星野 保管方法については諸説ありますけど、豆の状態で1ヶ月で飲み切るなら、直射日光、高温、多湿を避けて、密閉容器に入れて常温で保存していただければOKです。

直射日光、高温、多湿を避け、密閉容器で保存が理想的。豆の状態で1ヶ月で飲み切る量なら画像のような場所に常温保存でOK。

星野 ただ、1ヶ月を過ぎるのであれば、密閉容器にいれて冷凍庫に保管してあげてください。

皆川 「冷蔵庫」ではなく、「冷凍庫」と。豆が凍っても大丈夫なんでしょうか?

星野 冷蔵庫というのは他の食品が沢山あって、温度がまた微妙なんですよ。冷凍庫に比べると鮮度の面では落ちるし、他の食品の匂いを吸っちゃう可能性もありえます。密閉が甘い状態で冷蔵庫なんかに入れたら一発でアウトですね。彼(コーヒー豆)は魚や肉、納豆なんかの匂いを一生懸命吸うわけですよ。そんなの飲みたくないじゃないですか(笑)。

だからどうするかというと、冷凍庫に入れます。コーヒー豆は焙煎して水分飛ばしてありますから、冷凍庫に入れても凍りません。なので、保管方法はジップロックにいれて速やかに冷凍庫にいれてあげればいいだけです。

より美味しく飲みたいなら、エイジングして10日目まで放置しておいて、一番美味しくなったピークポイントで冷凍庫に入れていただければいいですね。

皆川 冷凍庫に入れておいた豆をドリップで使うとき、これは常温に戻してから使ったほうがいいんですか?

星野 そのまんま使ってください。豆は凍るわけではないのですぐに使えます。ただ、豆自体の温度は下がっているので、抽出されたときの液体の温度は常温時よりも若干下がります。

ただ、これはバリスタ界では今結構スタンダードな話なんですけど、冷凍するとショ糖が増えると言われているんですよ。

皆川 ショ糖?

星野 糖の一種で、砂糖の主成分でもあるショ糖です。ショ糖が増えるとコーヒーの甘みが増すんですよ。だから、バリスタ界ではコーヒーを冷凍するのがトレンドになってます。冷凍したコーヒーを使って、競技会では抽出してたりしますよ。

だから、もうこう考えると買ってきたら速攻冷凍庫でもいいです。そして、より美味しく飲みたいなら10日間待ってから冷凍庫ですね。

バリスタの世界

皆川 バリスタ界でもコーヒーを冷凍するのがトレンドなんですね。

星野 すごいんですよ、バリスタの競技会とかって。エイジングのおいしさのピークがどこにくるかを21日目として、常温状態で抽出した液体と冷凍状態でどう糖度が増すのか、それを糖度計で計測して、とか。

ウサインボルトが0.1秒を刻むために、どんなことでもするじゃないですか。僕らもこうした試行錯誤を繰り返して、少しでも刻むためにどんなことでもしているんです。コーヒーを美味しくするんだったら、僕らはどんなことでもやるっていうのがコーヒー屋。

コーヒーは無限の可能性があって、まだ見ぬ味わいが絶対あるんですよ。それを信じて疑っていないので。地球上でまだ誰も飲んでないものがあって、もっとおいしいものがあるはずなんですよ。これはコーヒー屋のロマンですね。

皆川 コーヒー屋のロマン。まだ見ぬ味わい。これからどんな味と出会えるのか、想像するだけでワクワクです!

コーヒーの豆選びのまとめ

コーヒーの豆選びにあたり、おすすめの豆や選ぶときのポイント、賞味期限や保管方法についてを教えていただきました。

  • はじめての豆選びで迷ったら「ブラジル」から入るのがおすすめ
  • 飲み比べしてみたいなら「ブラジル」「インドネシアのマンデリン」「エチオピア」がおすすめ
  • 焙煎は、浅ければ酸味が強く素材の個性が、深ければ苦味が強く香ばしさが出てくる
  • コーヒーの賞味期限は粉なら2週間、豆なら1ヶ月
  • 保管方法はジップロックに入れて冷凍庫がオールマイティ
  • 焼き立てはエイジングするとより美味しくなる

次回は、ペーパードリップでおいしいコーヒーを淹れるにはどうすればいいのか、おすすめレシピも含めて『コーヒーの淹れ方』についてお届けします。